雪之丞変化
出演:林長二郎,嵐徳三郎,高堂国典
おすすめ度
雪之丞の策略が功を奏し、米不足と価格高騰のいざこざから、長崎屋と廣海屋がつかみ合いのケンカをはじめて、すったもんだの末に廣海屋の店が大火事となる。廣海屋の赤ん坊を助け出した雪之丞は、しかし女盗人のお初に赤ん坊をうばわれ、さらに因縁の剣客らとばったり鉢合わせになり、大勢に囲まれ斬りかかられる。そして乱闘の末に雪之丞が落とした忘れ形見の刀から、とうとう土部三斎にその正体を見抜かれてしまう。
あらすじをナレーションでザッと説明する冒頭の20分あたりが退屈なのだが、そこからおもしろくなる。構図やセット、衣装、そしてメイクは見事であるが、ラストの仕掛け天井のオチはややB級映画臭い。しかし坊主&太眉の土部三斎がマンガチックで強烈な好演である。また歌舞伎の舞台裏での闇太郎による悪党一網打尽シーンが、スカッとした気持ちよさをあたえている。女盗人のお初の最期を「背中」で隠す演出もよかった。
とてもじゃないがいわゆる昭和10年というイメージに収まりきる映画ではありません。
豪華舞台セットをくまなく活かして見せる圧倒的な演出手腕、母の亡霊を見せる際の大胆さ、とにかく映画的に凄い。
無声の活動写真時代から音を持った映画へ、一歩一歩未開の地に足を踏み入れる鮮烈な映画美がここにはある。
評論家の故・淀川長治氏は溝口健二と衣笠貞之助をしばしば並べて、日本で唯一画面に詩のある監督として賞賛しました。
溝口健二はフランスのカイエ誌とその影響下にある日本のシネマ69誌の面々に選ばれた監督ですが、衣笠は選ばれませんでした。
今日の溝口・衣笠の評価の甚大な隔たりはそこに起因していますが、その現状が正しいものではないことがこの映画を見れば納得できるはずです。
衣笠貞之助が映画史に屹立する紛れも無い大監督であることを証明する作品のひとつがこの『雪之丞変化』です。
ただそれだけに再編集せずにそのまま残しておいてほしかったとは思います。(現在残っているものは1952年に再編集した版)
ところどころに入る男声ナレーションの説明がどうも映画の流れと合わない気もします。
私は林長二郎こと長谷川一夫の女形の頂点はマキノ正博監督『男の花道』(昭和16年)だと思います。
『男の花道』での長谷川一夫はこれでもかというくらい女・女・女で演じ抜いており、なんなんだこれは・・・とあっけにとられます。その細部にわたる工夫と技量の練磨は今後どのような役者であっても到達できない境地でしょう。伝統芸能の粋と大衆芸能の明るさが完璧に融合した傑作です。
『男の花道』を見なければ映画における女形とは本当はどういうものなのか誰にも分からないでしょう。
この『雪之丞変化』に興味を持たれた方は是非合わせてご覧ください。
紛れもなき日本映画史上の傑作である、『雪之丞変化』も『男の花道』もいまだDVDになっていません。
一刻も早いDVD化が待たれます。
