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巷説百物語 (怪BOOKS)
京極 夏彦(著)
おすすめ度
越後の難所・枝折峠。
旅の僧・円海は、雨宿りの小屋で奇妙な一行と出会う。
その中のおぎんという女が百物語として語った、
山猫に化かされる哀れな花嫁の話に、
なぜか平静ではいられない円海は…。
〈京極堂〉シリーズが、謎を妖怪と名付けて祓い落とす、という趣向
であるのに対し、本シリーズは、その完全な裏返しとなっています。
真っ当な手段では対抗できない世の悪に対し、妖怪という神秘を
演出することで裁きを与え「怪異(≒完全犯罪)」を創造していきます。
◆「白蔵主」
甲斐の国、夢山。
狐釣りの弥作は、普賢和尚という僧に殺生の罪を
戒められ、猟師を辞めたことをおぎんに告白する。
しかし本当は、人には言えない、
忌まわしい事情を抱えていた…。
狐の妖かし「白蔵主」に重ねられていく人々の思惑と欲望―。
「弥勒三千」と嘯く又市が、結末で思わず漏らす倫理観にも注目です。
その仕掛けの巧みさよりも、なぞらえられる妖怪奇憚に惹かれる自分がいる。
人の心に妖しぞ棲む。
それは京極堂の妖怪シリーズにも通じる視点でもある。
京極堂の活躍するシリーズに出会った時、その薀蓄の膨大さ怪奇と現実との境界線の朧な世界に惹かれたものだが、百物語シリーズを読んで初めて自分の読みたかったのはコレなのだと感じた。
だが後半の話になるに連れて徐々に面白さが増していく。初めのほうの話ではほとんど「役」としてしか描かれなかった登場人物たちの背景やキャラクターにどんどん深みが出てくる。次も読みたい、と思われること間違いなしだ。
お勧めの話は「芝右衛門狸」「塩の長司」「柳女」「帷子辻」。

語りに実に味がある。こういう文体は京極の真骨頂だ。この『るび』が付いたり付かなかったりするところが微妙にイイ。書き出しのフレーズを整えてくるやり方も面白い。だからどうしても面白くなってしまう。変な言い回しだが昔の文人達は和綴古文を読んでこんな風に楽しかったのかな、ということを疑似体験しているような気分になってくる。
しょき。
さ。
ささ。
さささ。
さ。
旨いよなぁ。ホント。本作では特に最後の『帷子辻』が響いた。傑作である。
読者は普通には狂言回しの役割を与えられた百介に感情移入せざるを得ないのだが、現在を生きる私達の道徳観に基づいた「善」「悪」は用を成さない。百介もどうやら少し逸脱したい常識人なため、後ろ暗い世界にあこがれ、こちら側に安寧とした自分の居場所を持ちつつ、あちら側に首を突っ込もうとする。本作ではまだ、かかわりが始まって、浸かり始めて、それでもまだ本質的な「覚悟」を求められるわけでもなく、読者もかなりはらはらしながらも安心して事件にかかわれる。
次作を読むなら順番は間違えない方が良い。
